「…ん…」
目を開けると、気を失う寸前まで見ていたのと変わらない景色だった。
頭を振りながら起き上がる。
確か、自分はよく分からない呪文を言いながら苦しんでいたはずだった。
体の中から、溶かされていってしまうような。
しかし今、何事も無かったかのようにココにいる。
「結局何だったんだ…?」

 プライマリーが立ち上がると、何処からともなく声が聞こえた。
「もう、大丈夫だ…」
耳に慣れたその声の主は紛れも無く。
「…フェイスティー?何処にいる?」
けれどフェイスティーは答えず、話を続けた。
「ルインは殺した。もう贄は必要ない。…お前は自由だ、プライマリー」
「ルインを…?神を殺しただって…?」
「全部アイツのせいだったんだ。全てを忘れていた俺は、ルインに良いように操られて…。すまない。もっと早くに分かっていれば」
相変わらずわからない事だらけだったが、プライマリーは頷いた。
「…とにかく、俺もお前も無事なんだな?それなら…」
ところが。
「それなら…良かったんだけどな…」
「え…?」

 天井が光った気がして、プライマリーは上を見た。
ちょうど両手で包めるくらいの光が、ゆっくりと落ちてくる。
何度見ても光、光なのだけれど、プライマリーには何故かうっすらとフェイスティーの姿に見えた。
「フェイスティー…?」
「俺さ、やっとわかったんだ」
フェイスティーは、穏やかに笑っていた。
「贄になった奴らの気持ち。何かを、誰かを命懸けで守りたいっていう気持ち」

 どうして今まで、分からなかったんだろうって言うくらい、簡単。

 

「お前に会えて、『友達』になれて良かった…」
「何だよ、いきなり。変な事言うなよ」
プライマリーはちょっと照れ臭そうに言った。
「どうなるかわからないけど、また会える事があったらその時は…、本当の名前で呼んでくれるか?」
「…どうなるか…わからない…?」
微笑んだままのフェイスティーは、消えかかっていた。
ルキと、同じ。
彼もまた今はただの思念。

 プライマリーは慌てて手を伸ばす。
「俺の、本当の名前は…」
それは、小さな、小さな声で。
耳を疑うプライマリー。
もう一度言ってくれと言いたかったけれど、もうフェイスティーの姿は見えなかった。
ただ、光がだんだん薄れていた。
「やめろ!逝くな!!」
涙で滲む視界。
小さくなる光。
掴もうと伸ばした手は、何も触れる事無く。
「フェイスティー!!」

 完全に光が消えた後、小さな十字架のペンダントが地面に落ち、その後を追うように一枚の羽根がふわりと落ちた。

 

 全ての疑問が解けた彼は、きっともう何も未練はなかったのではないか。 プライマリーはそう、思いたかった。




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