自分が家に戻っても、世界は全然大丈夫だった。
贄を差し出さなければ世界が滅びるなんて、迷信だった。
何も知らない家族は、ただそれだけ。
涙を浮かべながら迎えてくれたけれど、プライマリーはあまり嬉しくなかった。
だって、何も納得できていないから。
あの日からしばらくは部屋から出なかった。
部屋から出ても長い間、家から出なかった。
今日は、久し振りの外出。
あんな騒ぎがあったことなど嘘のように街は静かで。
まあ元々、ディールサム家以外には、贄の事は漏れていないはずなので当たり前なのだが。
何処へ行くあてもないので、プライマリーは以前のように川原へ行くことにした。
川原は、相変わらず人気がなく静かだった。
まだ少し遠い春。
風は冷たい。
――いつも、話していたのに。
隣に座って。
静かに自分の話を聞いてくれて。
――たまに変な事言ってたけど。
それがまた、なんだか面白くて。
石を一つ拾って川に投げると、ポチャッと情けない音を立てて沈んだ。
自分を助ける為に、死んでしまった。
――俺が、死にたくないって言ったから。
自分の為に、命を懸けてくれた。
何だか目頭が熱くなってきて、思わず叫んだ。
「まだ礼も言ってないのに死ぬなんて酷いじゃないか!!」
「じゃあ礼の一つくらい言ってもらおうか」
「………!!」
思いがけない返答に振り返ると、そこに彼はいた。
自分を救う為に命を落としたはずの彼が。
「お、お前…なんで…?」
「…理解しがたいような事が重なって」
やれやれ…と首を振る彼は、以前と何ら変わりなく。
「ホントに…ホントに本物なのか…!?」
「ホントにホントに本当に本物だ」
思わずプライマリーは彼に抱きついた。
「馬鹿野郎!俺…本当に心配して…!」
その言葉に、彼はムッとした。
「馬鹿とは何だ!礼を言うんじゃなかったのか!?」
「俺なんかの為にあんな事して…馬鹿野郎!…でも、ありがとう…」
「……良いんだ。礼を言いたいのはこっちなんだから」
しばらく泣いていたけれど、ようやく落ち着いて離れて、プライマリーは思い出す。
「そうだ…コレ」
「ん?」
プライマリーが差し出したのは、十字架のペンダント。
「コレ…持っていてくれたのか…?」
「そうだよ。きっとお前の大切な物だと思って…」
手渡しながら、こう言った。
「…お帰り、テンダー」
それを聞いて、フェイスティー…いや、テンダーはちょっと照れたように頭を掻きながら応えた。
「…ただいま…って言うのか…?」