「どうしても、殺さなくちゃならないのか?」
闇に向かって、フェイスティーが声を掛ける。
すると、何処からともなく女の声がした。
「…情が移ったか」
そう言われると、否定したくもなる。
けれど。
「よく分からないけど…俺、アイツは殺したくない」
暫しの沈黙の後、低い声で女が問う。
「ではあの女に殺されても構わないと?」
フェイスティーは、大きく首を横に振った。
「そうじゃない!アイツは違うんだ、今までの奴と。死んでも良いって、思ってない」
「だから生かしてやりたい、と」
「…ああ」
「…」
また訪れた沈黙に、フェイスティーは悲愴にも似た顔をする。
「無理なのか?」
「…」
「アイツを殺さないと、あの女に摂られて…それで…」
そうして俯いた時、ようやく女が声を出した。
「生かす手がないわけでもない」
フェイスティーの表情が、パッと明るくなる。
「本当か?どうするんだ!?」
感情のこもらない声で、女は言った。
「あの女を殺す。そうすれば、贄も必要ないだろう」
あまりにも当たり前の事だった。
贄を求めている彼女を殺せば、プライマリーが贄になる事なんてないのだ。
「…あの女を…殺す…」
「あの女は手強いぞ。下手をすれば…」
お前が殺される、と言われる前に、フェイスティーはくるりと後ろを向いた。
「いいさ、やってみる。そうすればアイツは生きられるんだろう?」
掻き消えるフェイスティーの後に残ったのは、静かな闇だった。