途中、自分以外の足音が聞こえて、フェイスティーは動きを止めた。
前に、見たことのある少年が立っていた。
そのあまりに意外な少年の姿に、思わず息を呑む。
「…クイック…!どうしてお前がココに…!?」
「久し振り…というべきなんだろうね」
少年の名前は、ルキ・クイック・ディールサム。
900年前、最初にその身を贄として捧げた者。
「お前は…確かにあの時…!」
「『死んだはず』…?」
フェイスティーは、驚きを隠せなかった。
確かに彼は、贄としての役目を果たした。
それを自分は見届けた。
それなのに何故、彼がココにいるのだろうか。
「僕はもう、生きてはいない。『思念』というモノなんだろうか」
その思いを読み取ったかのように、ルキは今の自分の状態を告げた。
「『思念』…?」
「やるべき事があるから、完全に死ぬわけにはいかなかったんだよ。900年も前に死んだのだから、肉体はもう無い」
「こんなにはっきりと見えているのに…?」
「それだけ僕の思いが強かったんだろうね。覚えているかい?『また、会える』と言っただろう?」
怖くて動けなかった。
今すぐにでもその場から逃げ出したかったのに、フェイスティーは動けなかった。
けれど、ルキは少しずつフェイスティーに近付いてくる。
そして、一歩進むごとに語りかけてくるのだ。
「…まだ、君は真実を知らない」
「来るな!」
「普通の人間よりも少し、詳しい事を知っているだけ。真実は、君が思っているよりもあまりに深い」
「…どういうことだ…。俺は…俺は全てを…」
全てを知っているはずなのに。
全てを教えてもらっていたはずなのに知らなかった。
クイックの、ルキの思念がココに残っている事など。
こんなにも長い間、思念が残っていたというのに。
「よく覚えておくんだ。君は利用されていた」
「…うるさい!」
思わず、胸に手が伸びた。
ペンダントヘッドを握り締める。
「それ以上近付くな!さもないと…」
「殺せばいい」
「…この…!!」
あまりに淡々としている彼にカッとなって、大きくした十字架を振り下ろす。
それはルキの体を薙いで、地面を擦った。
手応えは無い。
手応えは無かったけれど…。
何か、妙な罪悪感を覚えて、顔を上げられなかった。
「少し、落ち着く事を覚えなくてはね」
ルキの体が、どんどん透けていく。
足元が、消えていくのが分かる。
「殺せば、済むわけじゃない。大丈夫。君ももうすぐ全てがわかるから」
「…全てって…全てって何なんだよ!俺が知っていることは、何だって言うんだ!?」
「僕は君に、コレを言う為だけにココにいた。長い長い間」
君が全てを知っているわけじゃないという、たったそれだけの事を。
フェイスティーは見なかったけれど、ルキはココで何故か笑った。
「全部…全部君の為。あの人は君の為だけに。だから、分かってあげて。それから…」
もう、殆ど姿が見えなくなったところで、ルキはフェイスティーの肩に優しく触れて言った。
「皆の分まで、君は幸せになってね…」
それはどういうことなのか。
訊きたくて顔を上げたけれど、もうルキの姿は無かった。
――…もう…わからない事ばかりだ…。
でも、このままではプライマリーが死んでしまう。
混乱する頭の中を何とか落ち着けながら、フェイスティーはまた前へ進んだ。
良いのだ。
ヤツを殺しさえすれば、全ては解決する。
そう信じて。