贄たちが命を差し出した場所よりももっと奥深くに彼は来た。
暗く、何も見えない場所。
そう、あの闇と同じような。
けれど、フェイスティーは臆することなく歩を進め、大声で言った。
「インタリム!何処にいるんだ!!」

 すると、突然辺りが明るくなった。
広すぎない部屋が映し出される。
贄の部屋よりも文様が書き込まれた壁や柱。
壊れた像。
そして目の前には文字盤が落ちた大きな時計。
その中に、螺子や歯車に溶け込むようにして、彼女はいた。
薄い紫の髪、それと同じ色で光の無い瞳に白い肌。
背中から伸びる翼は左右の色が違う。
白と黒。
実に対照的に。

「俺は…お前を殺しに来た。アイツを殺させない為に…!」
いつか言った通りになったな、とフェイスティーは思った。
彼女は、神に匹敵する力を持っている。
もう、覚悟は出来た。

 ところが、彼女はあっさりと言う。
「…殺して…」
フェイスティーは、うろたえた。
「………どうして…!」
「殺しなさい。それが貴方の望んだ事なら」
困惑する事だらけで、思わず足を踏み鳴らす。
「クイックもそうだった!どうして簡単に命を投げ出す?」
「私の死を、貴方は望んだのでしょう?」
「そうだ!アイツの…プライマリーの為に!」
「…それで…良いの…」
フェイスティーの顔が、苦しみで歪む。
インタリムが笑顔だったから。

「どうして笑う?どうしてこれから死ぬのに笑っていられる?」
さっき大きくしたままの十字架を握る手に力がこもる。
殺さなくちゃ。
でも、何故か殺したくない。
思いがぶつかり合う。
「…殺しなさい」
「ああ!殺してやるよ!!」
意を決したように振り下ろした十字架は、簡単にインタリムの体を貫いた。
赤い血が、フェイスティーの深い緑の服に染みて黒ずんだ。
特に何というわけでもなく、『ああ、コイツも人間と同じ、赤い血なんだ』と思った。

 インタリムは刺されても笑っていた。

「貴方になら、殺されても良いの。貴方はもう、気付いたから」
血の気の失せたインタリムの手が、フェイスティーの頬を撫でる。
不思議と、フェイスティーはそれが嫌ではなかった。

「フェイスティー。私が息を引き取るまでの間、出来る限りの事を話してあげる。貴方の知らなかった、…真実を」
フェイスティーは、力なく頷いた。
また、妙な罪悪感があった。




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