大きな屋敷の中、少女は楽しげに廊下を走る。
「お母様、何処?」
くすくすと笑いながら、1つ、また1つと、無数のように存在する扉を開いていく。
探している、母親の姿はまだ見えない。
「もう、一体何処にいるのかしら」
ずっと探しているのに見つからない、といった風に、少々頬を膨らませながら、どんどん奥へと足を運ぶ。
この辺りは、まだあまり来た事が無い。
屋敷の中でもかなり奥まった所にあるこの辺りは、まだ昼間だというのに薄暗い。
――ちょっと怖いかな…。
そう思いながらも、少女は一歩踏み出した。
そこには、他と変わらぬ扉が1つ。
「こんな所にもまだ扉があったのね」
まったく、あんまり広すぎる屋敷も困りモノね、などと呟きながら、そっとその扉を開いた。
窓もカーテンも開いていないけれど、意外に中は薄明るい。
如何にも長年使われていなさそうな家具が、それでも尚きちんと並べられていた。
絨毯に積もった埃に気をつけながら、少女は部屋の中を探る。
他の部屋に母の姿は無かった。
使用人の話によれば出かけたわけではないという事なので、恐らくココにいるのであろう。
初めての部屋に興味を隠しきれず、其処彼処に触れてみたりする。
…が、やはり母はいないようだ。
本当に何処にいるのだろうと、手についた埃を払って振り返った時、壁にかけてある大時計に気がついた。
「うわ、大きい…」
屋敷の中にはたくさんの装飾物があるものの、こんなにも立派な振り子時計は珍しい。
少女は思わず近付いて触れようとした。
と、その時。
「…あら?」
その時計の傍にも1つ、扉があることを知った。
キイイィ…
ドアノブに触れると、それは簡単に動かせた。
この奥にも部屋があるのだろうか。
それならば、そこに母がいるに違いない。
そう思って、扉を開けた。
するとそこには…隣とは違い、明るい室内。
一歩踏み出した絨毯の不思議な踏み心地。
真っ赤な壁。
そして…。
「……お母……様?」
ごくり、と少女の喉の奥が鳴った。
確かにそこに母はいたのだ。
母…いや、母であったモノがあったのだ。
少女は目を疑う。
そこにある手や足は、小さく動きながら赤い赤い液体を噴出しているその体は、確かに母のモノなのだけれど。
大切なモノが、足りない。
カタカタと体が震え始める。
頭で理解できないのに、体が全てを否定しているような。
その時、隣で何かが動いた。
ビクッとしながらそちらへ顔を向けてみると、そこには少年が立っていた。
少女よりも幼い彼は、何も言わずにこちらを見ている。
「ルキ……、お、お母様は……」
そこまで言って、少女は気付く。
少年が手にしている、毛がたくさん絡んでいる塊は。
…声が、出なくなってしまう。
私はどうしたら良いのだろう。
少女がそう考え始めた時に、少年が口を開いた。
その言葉を聞いた、そしてその時の少年の表情を見た少女は、すぐさま部屋の外へ飛び出した。
出なかったはずの声が、一気に喉から逃げ出したがっている。
「誰か!誰か来て!!お母様が…!!」
あらん限りの声で叫んだ。
早く、誰か来て、と。
少女が父親と使用人を連れてその部屋に戻ってきた時、もう少年の姿はなかった。