噂が流れているのを知っているだろうか。
この世界には、終わりが近付いている、と。
「噂ぁ?」
部分的に緑色に染まった金の髪を揺らしながら、少年――ルーク・メルト・ディールサムは首を傾げた。
細い指が頭を掻き毟る。
如何にも『興味が無い』という感じ。
けれど彼の友人は、とても興味津々と言った風に熱く語る。
「そう!でさ、助かる方法はただ1つ!神に贄を与える事」
それを聞いてルークは、くだらねぇ…と息を吐いた。
「あのな?大体神なんてもんはこの世の中にいないわけ」
「あ、そういう事言う?この世界はなぁ、ルイン様が創って下さったんだぞ?」
「へーへー。でもな、『神様助けて〜』ってな具合にお願いして、助けてもらった試しある?」
眉をひそめながら言うルークに友人は言葉を詰まらせる。
ルークは、ほら見ろと言った。
「だから、そういう世界の終わりだの、神に何かあげれば助かるだのってのは嘘。誰かの作り話」
そんな事を言うルークに、友人は呆れたような目を向ける。
「お前ってさあ、何ていうか…普段夢見てるみたいにおちゃらけてるのに、そういうトコ妙に現実的だよな」
「何だその、おちゃらけてるって…」

 この星は、ルインと呼ばれる女神が創造した。
それがこの世界の一般的な信仰。
他に特に『〜教』という類のものは無く、ルインを崇めているか、ルークのように無関心なだけか、である。
けれど、無関心な人間は本当にごく一部。
この世界に住む人々の殆どが、ルインを崇め奉っているのだ。
しっかりと教会などというモノもある。
その為、ルインを讃える神祈祭(しんきさい)という祭は、年に一度、非常に盛大に行われる。
終わりではなく最初に一番盛り上がる、一風変わったこの祭。
初日に神への祈りを捧げ、数日間、もうどうしようもないくらいの大騒ぎだ。
ルークは、この祭で皆が活気付くのは好きだったが、ルインの存在は特に信じていなかった。
好奇心旺盛な彼は、何事も自分の目で確かめるまで信じることが出来ない性質なのだ。
ゆえに、ルインという女神も、会ってみない事にはその存在と創造したという事実を認めることは出来ない。
もしルインが本当にいたとしても、こんなに信仰心の無い奴では会ってくれないだろう等と友人と話しては笑う。

「で、ルーク。今年の神祈祭はどうするんだよ?」
「んー、そうだなぁ…」
学校の帰り道。
皆もうすぐ行われる神祈祭について、それぞれ仲の良い友人たちと話し合っている。
実は、ルークは『お祭り騒ぎが好き』と言いつつ、この祭に参加したことが無い。
それは、彼に原因があるわけではなく、他に原因があるのだ。
ルークが悩むポーズを取ったその時、彼の視界に1人の少年の姿が入った。
「多分、今年も駄目。んじゃ、俺ココで」
申し訳無さそうに右手を振って、ルークはその少年の方へ駆け出した。
それがあまりに急だったので友人は驚いて止めようとしたが、その少年を見て納得した。

「ルキ〜vv」
ルークはそう呼びかけながら、少年に後ろからアタックした。
ぼふっ
背中に衝撃を受け、ややバランスを崩しつつも、少年は静かにルークを振り返った。
「兄さん…」
青く澄んだ、しかし感情の無い瞳がルークを捉える。
少しばかり病弱そうに見える白い肌に、瞳と同じ色の髪。
ルークよりも少し小柄で華奢なこの少年の名前はルキ。
ルキ・クイック・ディールサム。
あまり似てはいないが、ルークの弟である。
「そう、お兄様でーす。一緒に帰ろうぜ」
機嫌良さそうに言うルークに、無表情のままルキは頷いた。
どうせ否定しても聞き入れてくれる兄ではないし、別に嫌なわけではないし、という所だ。
ぽふぽふとルキの背中を叩いて、ルークは言う。
「はい、決定!いやー、良かったよ。お前の事見つけられて」
にっと歯を見せて笑い、言葉を続ける。
「コレで3人で帰れるじゃん」
そう言ったルークの視線の先には、ルキよりもさらに小柄で華奢な少女が校門の所に立っていた。
誰かを待っているようだ。
腰よりも長く伸びた、先の方で結んである髪を何とはなしにいじっている。
「姉さん、待たせてゴメン。鞄持つよ」
近付くや否やそう言って、ルークは少女の手から、ひょいと鞄を取った。
そう、彼女はルークの事を待っていたのだ。
「あ…、別に大丈夫よ、ルーク」
「いーのいーの。こんなのは男が持つモノです。貴女の細腕には似合いませんよ」
ふざけつつも、とても楽しそうなルークを見て、少女はくすりと笑った。
少女はライシャ・コード・ディールサム。
とても小柄だけれど、ルーク達の姉である。
ルキと違い『見える』のではなく、正真正銘少々病弱な。
自慢できる事ではないが。
姉弟それぞれ1歳ずつ違う、所謂年子である。
しばらくライシャは微笑んでいたが、ふとルキの方を見て顔を伏せた。
ルキは、何も言わない。
無論、表情も変わらない。
ルークはそんな2人に気付いて苦笑した。
そして、精一杯明るい声で言う。
「さあ、帰ろう」




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