母が『事故』で亡くなった日。
たまたまルークは友人と遊びに行っていた。
楽しんで帰ってきてみれば、家の中は大騒ぎだ。
姉はガタガタ震えているし、弟は無表情なまま何も言わない。
父も、『大丈夫だから』というばかり。
母が亡くなった事を聞いたのは、次の日の夕方だった。
その日以来、ある部屋は一切立ち入り禁止になった。
ゆえに、そこで事故があったのだろうという察しはつくが、何があったなんてことは、誰一人として教えてくれない。
しかも、母の柩の中も覗かせてもらえなかった。
姉の、ルキに対する態度がおかしくなったのもその頃からなのだ。
一体あの日、何が起こったのだろう。
「…落ち着いた?」
ようやく震えの止まった姉に、ルークは優しく声を掛けた。
ライシャは小さく頷く。
恐らく自分の言葉がきっかけだろうと思い、ルークは軽く頭を下げる。
「ゴメン。今ホットミルクでも持って…」
くるよ、と言いかけたところで、ライシャが口を開いた。
「聞いてくれる?」
何故か真剣な目をする姉。
ルークは、黙って首を縦に動かす。
「…で、何を?」
「………10年前の事」
ルークの顔色が変わった。
ルキが母を殺した。
ライシャの口から紡がれたのは、ルークには信じ難い話。
「ルキが……母さんを…?」
ぎゅっと目を瞑って顔を覆う姉。
嘘をついているようには見えない。
…けれど。
「だってあの時ルキはまだ…」
まだ、4歳だった。
そのルキが母を殺したなんて、そんなことは。
「一体どうやって?」
思わずルークは呟いた。
するとライシャは激しく首を横に振る。
「もう思い出したくない!あんな光景は…信じられない!!」
「姉さ…」
ライシャの目には、涙が浮かんでいた。
「あの時私は確かに見たの。ルキは…お母様を殺したの」
深く息を吐いて、机に顔を伏せる。
「信じたくない…信じられない。けれど、私はこの目で見てしまったのよ」
また、体が震え出していた。
「酷い光景だったわ。全てが赤かったわ。お母様は…お母様は…あの部屋で……」
あの部屋。
それはあの、閉ざされた部屋の事なのだろう。
ルークは、何重にも鍵をかけられた扉を思い出す。
そのまま黙り込んでしまった姉に、ルークはそっと声を掛けた。
「もう、良いよ姉さん。ゴメン、俺が変な事言っちゃったせいだね」
ゴメン、ともう一度繰り返しながらルークは人知れず思う。
姉は、心を病んでいるのだ。
10年前のあの日以来。
あの日に何かあったのは確かなのだろうが、弟が母を殺したというのは信じられなかった。