真っ赤な血が、辺りに飛び散った。
フェイスティーが握っている十字架が、淡く光っている。
その光が男――10年前に逃げたレイリックの体を切り裂いた事は明白だった。
男は、ガクリと膝をついた。
そして、息も荒く懇願する。
「…フェイスティー…。この子には…手を…出さないでくれ…」
少し気まずそうに、フェイスティーは言う。
「…そいつがうるさかったからだ。別にそいつの命があろうとなかろうと、俺には関係ないしな」
「頼む…この子には…」
「………わかったよ!あんまりうるさく言うなよ。俺はそういうの嫌いなんだからな!!」
――守りたいものはあるか?
男の小さな呟きに反応したように、フェイスティーがビクリとする。
しかしそれには構わず、レイリックが倒れ掛かった男の体を支えた。
「先生!先生どうして!?僕は先生の言った通り、自分を誇ろうとしたよ?」
レイリックの洋服にも、どんどん男の血が染み込んでいく。
「でも、僕は偽者だったんだ!そして、本当の贄は先生だった。どうして!?」
そんなレイリックを優しく抱きとめながら、男は静かに言った。
「すまない、レイリック…」
溢れる血を見ないようにしながら、レイリックは言う。
「先生…死んじゃうよ!」
「良いんだよ、レイリック。これで――良い」
「先生!!」
――きっと私には、守りたいものが無かった。
だから、逃げた。
けれど今は…。
「嫌だ!嫌だよ先生!!死なないで!今までみたいに、色々な事を教えて!」
溢れる涙を拭う事もせず、レイリックは叫ぶ。
――この子を、守りたい。
「レイリック。お前は…私の教え子で…そして何よりも可愛い弟なんだ。ずっと…」
――『選ばれた事を誇れば良い』
どうして私はあの時、この子に嘘をついたんだろう――?
「ずっと笑いながら…」
――苦しめて、悩ませてすまなかった。
私が逃げなければ、全ての事はもっと簡単に運んだだろうに。
お前をこんなに苦しませる事は無かっただろうに。
教師としても、兄としても、……人としても…失格だな。
もうお前が悲しんでいても泣いていても、傍にいてやる事は出来ないけれど。
「笑いながら…何?先生…。先生…?」
溢れる血の量が少なくなった代わりに、レイリックに掛かる体重が重くなっていく。
――どんなに辛くても生きていて欲しいと思うのは、私の我が侭だろうか。
「――先生――!!」
男の体から、一切の力が抜けた。